キャリアインタビュー 臨床現場:小原さん
管理栄養士といっても,働く場所もお仕事内容もさまざまです.就職して初めて気付くことも少なくありません.今回は,病院で管理栄養士として働いた経験から栄養疫学研究の必要性に気付き,大学院への進学を選択した小原希実さんにお話を伺いました!
小原希実さん
4年制大学(管理栄養士養成校)を卒業後,大学院の修士課程に進学.修了後,3 年半の病院勤務を経て博士課程に進学.現在は,博士課程で栄養疫学研究に励みながら,クリニックの管理栄養士として勤務している.
きっかけは,家族の健康を願う気持ち
管理栄養士になろうと思ったきっかけは?
もともと料理が好きだった私は,よく家族のために食事を作っていました.高校生の頃,血圧が高い父のために,健康に配慮した食事を作りたいと考え,栄養学に関する本を手に取りました.そこで,「栄養学って面白い.もっと学びたい!」と栄養学に興味をもったことがきっかけとなり,管理栄養士を目指して大学に進学しました.
卒業後,修士課程に進んだのはなぜですか?
当時は,健康の維持・増進に役立つ食品の研究・開発に携わりたいと考えていました.この夢を実現させるためには,もっと研究を学ぶ必要があると考え,大学院(修士課程)に進学しました.修士課程では,食品成分の生理機能を調べるための細胞実験を行いました.
就職活動に行き詰ったことで気付くことができた,自分の根っこ
修士課程を修了後,病院に就職した経緯を教えてください!
もともとは食品の研究開発をしたくて食品メーカーへの就職を希望していたのですが,就職活動がなかなかうまくいかず…(苦笑).進路に悩んだ頃,ふと立ち止まって「自分が本当にしたいことは何だろう?」と真剣に考えてみたんです.
そこで,栄養学を専攻したきっかけは家族の健康を願うことにあったと思い出し,「人の健康を支える役に立ちたい」という思いが自分の根幹にあることに気付きました.可能なら,目の前の人の役に立ちたいと思い,患者さんと直に接することができる病院の管理栄養士になりたいと考えるようになりました.
病院で働くために,どのような就職活動をしましたか?
採用情報の収集には,インターネットと,大学宛てに届く求人情報を活用しました.病院の管理栄養士の採用情報は不定期に更新されるため,病院で働きたいと考えてからは常にアンテナを張っていました.最終的に2 つの病院の採用試験を受け,そのうちの1 つから内定をいただき,無事就職することができました.
病院では,どのようなお仕事をしていましたか?
栄養アセスメントや栄養指導,給食業務を通して,患者さんの栄養管理を行いました.
栄養アセスメントでは,担当病棟で新しく入院された患者さんの栄養状況を評価し,低栄養が疑われる場合など必要に応じて食事の介入を行いました.
栄養指導では,外来の患者さんや糖尿病の教育入院をされている患者さん,術後の入院患者さんを対象とした教育・指導を行いました.
給食業務では,主に衛生管理,異物混入が無いかの確認,献立の確認・修正を行いました.
1 度に6 病棟を掛け持つなど,病床数が1,000 を超える病院でのお仕事はなかなかハードでしたが,たくさんの経験をすることができました.
患者さんからの一言が,何よりの励ましに
病院勤務で,印象に残っている出来事を教えてください.
入職してから半年くらい経った頃,栄養の集団指導を初めて担当したときのことです.それまで栄養指導を嫌っていた患者さんが,「あんたの指導なら受けに来るよ」と言ってくださって,とても嬉しかったのを覚えています.
日々の業務で,「私は患者さんの役に立てているだろうか」と不安になることもありましたが,目の前の患者さんからの一言が何よりの励ましとなりました.
働いて初めて気付いた,研究の必要性
病院で勤務された後,進学したきっかけは?
病院での職務経験から,「臨床現場で求められる栄養学には,明らかにされていないことがまだまだたくさんあるんだ」と気付き,進学を考えるようになりました.
求める情報が見つからなかったり,情報はあってもその根拠が見つからなかったり….学問が発展しないうちは現場での進歩も期待できないと考え,自ら研究に取り組むことで臨床栄養学の発展に貢献したいと考えるようになりました.
進学をしながら管理栄養士としての仕事を続けることにしたのは,生活を続けるために収入が必要なためもありますが,臨床現場で生じた疑問や考えから博士課程への進学を決意したことから,現場の視点を持ち続けたいと考えたためです.学業と並行して働くことができ,かつ患者さんの声を直接聞くことができることを条件としてお仕事を探し,条件に合ったクリニックに転職しました.
クリニックと病院の違いを教えてください!
まず,患者さんの特性が違うなと感じます.以前働いていた病院では概してご高齢の患者さんが多くいらっしゃいましたが,今のクリニックではより若い,働き盛りの方が多くいらっしゃいます.
現職の栄養指導では,主に高血圧や糖尿病,高度肥満症の患者さんを対象としており,お仕事で日々忙しい患者さんが,どうしたら生活習慣を改善できるか,どんなことなら実行できそうかを考え,その方に合わせた提案をするよう心がけています.
初めて足を踏み入れた,栄養疫学研究の道
現在,大学院の博士課程で取り組んでいる研究内容を教えてください.
現在は,栄養疫学研究を学んでいるところです.栄養疫学研究では,人の集団を対象とします.修士課程では,細胞を対象とした実験研究を行っていたので,栄養疫学研究についてはイチから学んでいる状況です.
研究テーマとして,私は精神疾患患者さんの健康状態を維持・向上させるための食事を調べたいと考えています.精神疾患患者さんの食事療法はなかなか注目されないのですが,ご自身で食事のコントロールが難しく肥満になってしまう患者さんたちを病院勤務時代に見てきたこともあり,重要な研究だと考えています.
いまは,栄養疫学の基礎を学びながら,自分の研究計画をかたちにするべく日々論文を読み続けています.
同志たちと学べる場所が,学業や仕事の支えになっています
大学院とクリニック以外で,活動されていることはありますか?
栄養疫学を学ぶために,学外の勉強会に参加しています.
学生だけでなく,臨床現場や保健所・保健センター,大学,省庁など,さまざまな場所で栄養関連業務を担う人たちが全国各地から参加します.講義での学びもためになりますが,「日本の栄養学を盛り上げたい」,「栄養学で社会に貢献したい」という志を同じくする人たちとの交流に,この勉強会の意義があると感じています.同志たちと一緒に勉強することで,いつもよい刺激をもらっています!
日本で栄養疫学をきちんと学べる場所はとても少ないため,この勉強会はとても貴重な場所です.
そのほか,病院に勤務していた頃から継続して,精神疾患をもつ方の身体的健康の向上を目的としたワークショップにも参加しています.
これらの活動を通して,学業やお仕事のモチベーションを高めています.
忙しい日々の中で,息抜きも大切にしています
学業やお仕事でご多忙な小原さんの息抜きは?
やはり料理が好きなので,自宅で料理をする時間が普段の息抜きになっています.もちろん,食事をする時間も大好きです!
また,体を動かすことも大好きで,趣味で続けているダンスもとても良い息抜きになっています.
研究室では,3 カ月に1 回のお誕生日会などのイベントがあります.日々の研究に励むのはもちろんのこと,楽しむ時間も大切にしています!
これからの目標は,栄養学を通して社会に貢献すること
これからの目標を聞かせて下さい!
まずは,自分の研究を実らせることが目標です.今は調査の計画を立てている段階ですが,臨床栄養学の発展に少しでも貢献できるよう,がんばります!
博士課程を修了した先の進路は,まだ考え中です.臨床現場に戻ることも考えていましたが,教員として,臨床現場で活躍できる管理栄養士を育てたい,とも考えています.どんな道に進むにせよ,栄養学を通して,社会に貢献できる人でありたいです.
小原さんからみなさんへのメッセージ
最後に,管理栄養士を目指すみなさんへのメッセージをお願いします!
偉そうなことを言える立場ではないのですが…(笑)私からみなさんに,2 つお伝えさせてください.
はじめに,自分がどうありたいか,何をしたいかという,自分の根っこをしっかりと持ってください.この考えがしっかりしていれば,はじめの目標とは異なる職場に行っても,あなたらしく誇りを持って働けると思います.
そして,常に学ぼうとする姿勢を忘れないでください.管理栄養士は,人々のよりよい健康の実現を図る専門職です.栄養の情報を適切に理解したり伝えたりするのはもちろんのこと,チーム医療の一員として働く場合には,幅広い医療知識も必要とされます.国家試験の合格は受験生のゴールであると同時に,管理栄養士のスタートです.このスタートラインに立ってからが学びの本番!というくらいの気持ちで臨んでいただきたいと思います.
私もまだまだ勉強中の身です.一緒にがんばりましょう!!
小原さん,どうもありがとうございました!